電動キックボードの公道運転 無免許、無保険で事故なら人生が終わりかねない 2022.5.3

www.news-postseven.com

2022.5.3

大手コンビニエンスストアファミリーマートが電動キックボードのシェアリングサービス「Luup(ループ)」に出資し、最大600店超に貸出拠点を設置すると報じられた。条件付きではあるが、無免許でも利用できるという先の道路交通法改正とあわせて、次世代モビリティの普及がさらにすすみそうだ。とはいえ、改正法の施行は数年先のことなので、いまは免許が必要な乗り物だ。俳人著作家の日野百草氏が、改正法可決のニュースを知って、自分だけ法律施行後にタイムワープしたつもりの無謀なキックボード乗りについて追った。

 * * *
「電動キックボードね。(都心じゃ)ナンバーなしで走ってるのとか普通だよ、ライトも切れてて危ないったらありゃしない」

 新宿区、小さな商店で店先を掃除している方に話を聞いた。新宿といっても広いが地方の方が想像するような新宿駅、アルタ前や歌舞伎町も新宿だが、区としてみれば閑静な住宅街も多い地域である。また戸山や牛込、余丁町、富久町あたりは坂も多い。無論、その名の通り神楽坂なども新宿区で坂の町でもある。

「坂が多いし狭い道ばかりだから移動に便利なんだろうけど、ナンバー取ってないと違法だよね」

 違法である。原付(原動機付自転車、原付1種)とは排気量で50cc以下相当、もしくは駆動モーターの定格出力が0.6kw以下の二輪車を指す。電動キックボードは後者となるが、まず勘違いしないで欲しいのは、現時点ではいかなる電動キックボードであろうとナンバーを取得し、原付以上の免許を取得していなければ違法車両、無免許運転であり、公道走行をしてはならないということである。

「そうだよね、でもナンバーもなければライトもないのとか走ってるよ。夜なんか狭い歩道をスッと来てびっくりする」

 原付にもナンバープレート(標識)の取得はもちろん表示義務(区市町村それぞれの条例による)がある。そもそもヘッドライトがない時点で整備不良および無灯火走行の違反である。

「そういうの知らないで乗ってるのかね」

 知ってか知らずかはわからない。しかし現実には、こうしてナンバーも保安部品もない電動キックボードが走り回っている。

 2022年3月4日、改正道路交通法により電動キックボードの一部が「特定小型原動機付自転車」として無免許、ノーヘルで16歳から乗れるようにする法案が閣議決定、4月19日に衆議院で可決されたが、間違えないで欲しいのがこれをもってすぐに無免許ノーヘルで乗れるわけではないということである。実際に無免許、ノーヘルで乗れるようになるのがいつになるかは不明だが、おそらく2024年5月までには施行される見込みとされている。それはともかく現時点ではそうではない、これだけは確かである。

 

保険も入っていないなんて怖い


 筆者は先日、都下のターミナル駅でもそうしたナンバーも保安部品もない電動キックボードを見かけた。歌舞伎町など深夜になるとごく普通に走っている。都心、都下に限らず違法な電動キックボードが走る姿を目にする。みなさんも見かけたことがあるかもしれない。それほどまでに多い。実際、警察庁は2021年9月の通達において「利用者の増加に伴い、一部地域では交通違反や交通事故が発生しており、今後、その件数が増加することが懸念される」として取り締まりを強化、全国で摘発が相次いでいる。

 ここ1年の重大事故だけでも、新宿区内で無免許運転のあげく信号無視でタクシーと衝突した20代飲食店従業員、大阪市中央区で歩行者に怪我を負わせてひき逃げをした30代住所不定無職、同じく中央区でひき逃げ、それも子どもと2人乗りで逃走した49歳会社役員、名古屋市中村区で無免許運転、バイクに衝突した20代自営業、渋谷区でひき逃げをした20代会社員などキリがないのだが、大都市の繁華街を中心に悪質なケースが後を絶たない。さっそく、早稲田通りの歩道を走り去るナンバーのない電動キックボード(本当に多いのだ)とすれ違った高齢女性に話を聞いてみる。

「怖いですよ。あんな小さいのでも年寄りがぶつかったら大変ですよ」

 まったくその通りで、自賠責すらない無保険の状態で人身事故を起こしたら大変なことになる。筆者は先の改正道路交通法閣議決定された際、『電動キックボード「無免許ノーヘルで公道走行可」は見直すべきではないか』を書いたが、免許を取得し、法令に基づいた車両でナンバーを取得、保険にも入った上で公道を走行することに何ら問題はないし、そうした新しいモビリティの可能性を否定するつもりは毛頭ない。ここで問題なのは、ナンバーも取得せず、無免許だったり保安基準に適合してなかったりの電動キックボードを公道で運転する一部の人々である。今回の法案可決を勘違いしたのかわざとなのか、いまも乗り続けている。

「保険も入ってないなんて、ほんと怖いですね」

 ナンバーもないため個人の違法車両、かつ無保険であろうことを伝えると怖いという感想、本当に怖い。筆者が今回の改正道路交通法において、現時点で納得できない点が原付のような自賠責がなく、「特定小型原動機付自転車」に対する保険加入が強制でなかったこと、そしてヘルメットの着用もまた強制でなく努力義務になってしまったことである。改正道路交通法で無免許、ノーヘルで乗れるとされた最高速度20キロ以下の電動キックボードはナンバーも不要のため現時点の想定では自賠責がない。任意保険は損保会社各社で専用保険の商品化が進められているがあくまで任意、ちなみに自転車保険の加入率は義務化した地域で約60%に対して義務化していない地域では50%を切る。無保険の自転車にぶつけられても大変だが、無保険の電動キックボードにぶつけられたら大変な大怪我、最悪は死亡事故にもつながる。

 ヘルメットも着用を義務化すべきだろう。警視庁交通局によれば自転車事故による死者の56%が頭部損傷によるもので致死率は着用時と比べて約3倍も高くなる。保険の強制加入、ヘルメットの強制着用、この2点は絶対に義務化すべきだった。また16歳から無免許で乗れるという点も鑑みて、何らかの講習も義務付けるべきだと思う。仮にこのまま施行された場合、とくに未成年のお子さんを持つ親御さんは保険加入とヘルメットの着用について厳しく対応すべきだろう。自転車もそうだが、万が一にもお子さんが事故、それも他人を轢いてしまったら保護者が大変な賠償を背負う危険性がある。もちろん各企業によるシェアサービスは保険も完備されているのでその限りではない。

 

通販で簡単に手に入る格安の電動キックボード


 もちろんこのまま施行されるかはわからない。願わくば保険とヘルメットの義務化を再検討していただきたい。電動キックボードが社会に受け入れられるためにも最低限必要な措置と考える。電動キックボードの普及が進んでいる韓国ではヘルメットの着用は義務で罰則も設けられている。歩道走行も禁止である。日本の今回の改正道路交通法では時速6キロまでなら歩道走行を認めるとしている。道路事情の違いもあるが韓国は禁止、気に入らない人もあるだろうが、この点は韓国のほうが正解だろう。ネット通販を手掛ける経営者の話。

「アジアの格安な電動キックボードが通販で簡単に手に入ります。保安部品もなければ公道走行に適さない違法車両もあります。庭で乗ると言われればそれまでですからね。多くの公道トラブルは通販によるものでしょう。本当に簡単に手に入りますし、バレなければいいという考えの人もいるのでしょう」

 実際、通販大手のアマゾンは「電動キックボード、電動スクーターの安全な使用について」として販売ページに警視庁の交通安全情報を掲載している。私有地で乗るなら問題ないのだから売らないわけにもいかないのだろうが、現実には現状の不適合車両の多くが違法車両として公道を走行しているのだろう。なぜなら見る限り、その多くが現状の日本のナンバープレートが発行される条件を満たしていない。ナンバーが取得できることと公道を走る条件は原付に限れば別問題であることも留意していただきたい。たとえ市町村でナンバーを取得できても警察の対応は別である。必ず、原動機付自転車として日本で登録可能な車両を買って欲しい。もちろん、予定される「特定小型原動機付自転車」であっても細かい車両規定があるので注意が必要だ。

 重ねるが、現時点では電動キックボードは免許が必要で、決められた保安部品を備えた上でナンバープレートを取得、自賠責(願わくば任意保険も)に加入しなければ公道を走行してはならない。警察に摘発されるだけでなく、事故を起こせば人生が終わりかねない。「じゃあ自転車はどうなのか」というすり替えではなく、自分の人生を守るためにも違法な状態で電動キックボードを公道走行することはやめてほしい。筆者は、都心のそうした車両を見るたびに恐怖しかない。まだ施行前なのに多すぎる。本当にやめてほしい。

 

**********************************************************************************************