一見回り道に見えても、実は… これってさまざまな分野に共通しています 2019.9.19

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2021.9.19 産経新聞

 

「先生、大変なことになっています」

東大の宮崎徹教授(免疫学)はこの夏、思いがけない〝騒動〟に見舞われた。ネコの腎臓病の治療薬開発を目指す自身の研究に関する記事がネットニュースに掲載された翌日、大学へ寄付の申し出が殺到したため、事務局が急遽(きゅうきょ)、宮崎さんの項目を追加したというのだ。

研究に大きな進捗(しんちょく)があったわけではなく、記事も新発見を報じたものではなかった。そもそも、自身の研究に寄付は募っていない。1日足らずで数千件にも上った寄付に寄せられたコメントを読むと、腎臓病にかかりやすいネコを助けたいという、あふれんばかりの思いが縷々(るる)つづられていた。

寄付額は1カ月で1億7千万円を突破。さらに、難航していた治療薬の製造に手を挙げる製薬会社や異業種からの支援、協力の申し出も続々と寄せられた。新型コロナウイルス禍でやむなく中断していた開発は近く、再開の見通しだという。全国の愛猫家たちの思いが、研究を大きく後押しした。

 

ヒトの医者

 

宮崎さんは獣医師ではなく、ヒトの医者だ。東大医学部を卒業後、臨床に携わったが免疫学の研究に転じ、スイスのバーゼル免疫学研究所でヒトやマウスなどの動物の血液中に共通して存在するタンパク質「AIM」を発見する。最初はどのような働きをするのか分からなかったが、腎臓を詰まらせる死んだ細胞などの「ゴミ」を排除する働きを持つことを突き止めた。

ほかの動物についても調べてみると、ネコだけはなぜか血液中のAIMが測定できなかった。一般向けの市民講座で講演したとき、豆知識的に「ネコにはAIMがないらしい」と紹介すると、来場していた獣医師から「ネコには腎不全が多いんです」と聞き、AIMはネコの治療薬になり得ると気付く。そこで獣医師らの協力を得て、ネコの腎臓病治療薬の開発に取り組むことにした。8年前、平成25年のことだ。

ネコ科の動物は腎臓病にかかりやすいが、なぜなのかは謎だった。宮崎さんは、ネコ科の動物はAIMを持ってはいるが、生まれたときからうまく働かない状態になっていることを突き止め、28年に腎臓病が起きやすい一因だと発表した。愛猫家や獣医師らにとっては世紀の発見にも匹敵するが、英科学誌「ネイチャー」には「ネコのことで、一般性がない」と、論文掲載はされなかった。


ヒトの医者である宮崎さんがなぜ、ネコ薬開発に取り組むのか。それは、ヒトの「治せない病を治す」ためなのだという。

 

専門家の目を捨てる


「大学で医学を学んだとき、教科書には治療法が書かれていたけれど、臨床に出ると治せない患者さんばかりなんですよ。特に腎臓病や自己免疫疾患などは、対症療法しかできない。根源的に治したい、それには基礎研究だ、と思ったんです」

免疫学の基礎研究に転じると、研究に必要な実験手技を一から学ぶところから始まった。専門分野を超えて研究をするということは、一研究生に戻り雑巾がけからやり直すということだ。それでも6年で4大科学誌全てに筆頭著者として論文発表するという、研究者としての「グランドスラム」を果たす。だが、「研究者として業績を上げても、『治せない病気』を治せない以上、自分には進歩がない」と忸怩(じくじ)たる思いだったという。

「専門分野を超えた研究をするしかない。リスタートしよう」と考え、免疫学者の視点を取っ払って発見したのがAIM。体内でこれを増やすことでヒトの腎臓病も治療できると気付いたのも、経済人との交流がきっかけだった。

専門家の目を捨てる
「大学で医学を学んだとき、教科書には治療法が書かれていたけれど、臨床に出ると治せない患者さんばかりなんですよ。特に腎臓病や自己免疫疾患などは、対症療法しかできない。根源的に治したい、それには基礎研究だ、と思ったんです」

免疫学の基礎研究に転じると、研究に必要な実験手技を一から学ぶところから始まった。専門分野を超えて研究をするということは、一研究生に戻り雑巾がけからやり直すということだ。それでも6年で4大科学誌全てに筆頭著者として論文発表するという、研究者としての「グランドスラム」を果たす。だが、「研究者として業績を上げても、『治せない病気』を治せない以上、自分には進歩がない」と忸怩(じくじ)たる思いだったという。

「専門分野を超えた研究をするしかない。リスタートしよう」と考え、免疫学者の視点を取っ払って発見したのがAIM。体内でこれを増やすことでヒトの腎臓病も治療できると気付いたのも、経済人との交流がきっかけだった。

ネコが救われ、ヒトの救いにつながる日が、待ち遠しい。

(きむら さやか)

 

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